第5回ナナメの会レポート
「ナナメの会レポート」イメージでしか知らなかった難民支援の本当の姿
2021年10月2日

親や先生は「タテ」の関係、友だちは「ヨコ」の関係、そのどちらでもない「ナナメ」の関係。
違う世代や知らない業界の人との関係は学生にとって貴重なものになってくるはず。
「ナナメの会」はCareeOnが推薦する社会人経験豊富な「オトナ」をゲストスピーカーに迎え、学生も社会人も一緒に参加できるイベントです。
今回は9月4日(土)に行われた第5回目の様子をご紹介します。
ゲストスピーカーは株式会社BonZuttner 代表取締役 坂下 裕基さん。
社会課題の一つである難民や避難民と呼ばれる人たちの自立を助ける活動を事業として行っています。
まずはどんなお仕事なのか詳しくお話しいただきました。
難民ってなんだろう
株式会社BonZuttnerは今はまだ小さなベンチャー会社で、ウェブページやウェブアプリを開発しています。
人数は全部で10人くらい。
難民、避難民の人と一緒に事業に取り組んでいて、開発はシリアのエンジニアにやってもらっています。
彼らのスキルを活かしたり、稼ぐ手段を提供できるようにすることが目的です。
難民、避難民は多くの日本人にはなじみのない存在だと思いますが、避難を強いられた人たちのことです。
「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた人々」という定義になっています。
日本でも数万人規模で避難民がいるんですが、わかります?
福島の人たちです。
2011年震災があった当時、避難民は6万人いました。
2021年(5/12現在)になっても28,226名が避難民となっています。
「難民」というと難民キャンプを思い浮かべる人が多いですよね。
もちろんそういった側面もあるんですが、多くの難民はそうではないんです。
悲しいとか可哀想とか、怖いとか、テロリストだとか、そういうイメージは本当にただの一面でしかない。
難民についての正しい認識や状況を伝えていきたいし、どんな方でも自分の境遇に関わらず、一緒に未来を築いていけるよう活動を事業としても成功させていきたいです。
世界のどこにいても自分の力で稼ぐ力を持ってもらう
我々がやっていることは「Talk with」と「Work with」です。
難民のことを知ってもらう機会を作る「Talk with」ではイベントを開催したりして、今回のようにそもそも難民自体を知ってもらう活動を行っています。
「Work with」は働くことを通じて、彼らの経験や知識を活かしてもらうことです。
2つのことを通じて避難民の「はたらく」や「学ぶ」を作っています。
境遇に関わらず、難民の方々が自身の力で世界中のどこにいても活躍できるスキルが望ましいと思って、ITエンジニアの育成からはじめました。
シリアやアフガニスタンの避難民は、国に戻るかもしれないし、また違うところに行かないといけないかもしれないという状況におかれています。
そんな中で行く先々の社会に馴染み稼ぐというのは難しいですから、どこにいても稼げる力を身につけてもらおうと。
それにはITスキルが良いだろうと思っています。
本サービスである「Caree On」のオンラインシステムについても、彼らの手を借りて作っているんです。
「支援者」「被支援者」ではない関係に未来がある
難民支援に関わっていると、どうしても「支援者と被支援者」という関係になってしまうことに違和感を感じることがあります。
自分よりはるかに優秀なのに、たまたま生まれた国が違うだけで難民になってしまい、そんな背景があるがゆえに活躍できないなんて、なんかおかしいですよね。
難民を「社会的弱者」から「輝ける人」になるようにしていきたいんです。
それって当たり前なんだけど、私たちは当たり前のことを実現したいと思ってます!
必要なのは自立。
援助は悪いことではないけど、彼らが自分たちの力で中心になってやっていけるかどうかはすごく重要なことです。
日本の利益を生むために彼らを使っているのでは、ただの搾取モデルと変わらない。
雇用を生んだとしても本当に彼らの力になっているのか、成長とか資本主義の食い物にしていないかはきちんと考えてほしいし、せっかくの支援がそうなっていないか心配はしています。
世界が求める人材は同じ
普段はなかなか聞く機会の少ない社会課題に向き合う坂下さんのお仕事に、参加者から様々な質問がありました。
Q:普段はどんなことをされているんですか?
A:ウェブサービスやアプリ開発についてお客さんと話していることが多いです。
日本の9割の人は英語が話せないので、通訳的に技術者とクライアントの間に入ってやり取りのサポートをしたり、あとは営業活動ですね。新規案件の受注にむけての営業です。
Q:今最も必要なものはなんですか?
A:人ベースで言うとディレクター人材。それはもうどこの業界でも不足してますけどね。
少しずつですが仲間も増えてきていますよ。
あとは自由にシリアに行ける状態にはやく戻ってほしいですね。
Q:学生時代からそういうことに興味があったんですか?
A:学生時代から社会問題とか社会課題には興味がありました。
特定の分野というより、環境とかジェンダーとかいろんなことに興味があったな。
学生時代にはミュージカルをやっていて、その収益を寄付する活動をしていました。
就職活動では、そういった活動とは全く関係のない貿易会社に就職したんですが、ミュージカルがやりたかったので、けっこうすぐに会社をやめちゃって。
NGOの職員も兼務していたんですが、ちょうど東北の震災があった頃だったので、
アジアから来ている学生でボランティア希望の子をコーディネートしたりしていました。
その時は自分でもミュージカルで東北をまわったり、その利益を福島に寄付する活動をしていましたよ。
ミュージカル活動自体は周りの人のレベルが高くて、裏方に転向しましたけど。(笑)
何かをはじめようとするとき、原体験はなくてもいい
Q:そういった支援に興味をもった原体験はなんですか?
A:実は特に原体験はないんです。
でも「ない」ということを誇りに思っています。
私自身日本にいれば誰でも体験するような「はだしのゲン」を読んだとか、ヒロシマのことを知ったとかそういうレベルでの体験しかない普通の人間です。
強烈な原体験がない人間でもこういう活動ができるということを広めたいです。
社会起業家って原体験がないとやっちゃいけないみたいな暗黙の了解があったりするんですが、まったくそんなことはないと思います。
今の時代、日本に住んでいて「家がミサイルで爆発されるんじゃないか」って心配してる人は多分いないですよね。
この何十年かそんなことは起きてないですから。
そんな中で必ずしも原体験は必要ないように思うんです。
メディアにもよく聞かれるけど、原体験についてはあまり強調しないようにしています。
強烈な原体験を持っている人もいれば、そこまでじゃないけどものすごい思いを持っている人もいる。
ただ、誤解してほしくないのは原体験がないから軽々しくやっているわけではないということです。
関わっていることはとてもナイーブなことだから、やるからには自分の人生をかけて必ずやるべきだと思っています。
視野を広げることで学生時代の時間を有効に使える
Q:失敗談があれば聞かせてください。
A:失敗というかちょっと後悔していることなんですが、貿易会社にいたころ、すごくつまらなくて苦しかった。
仕事が苦しかったわけじゃなくて、こんな20代の若い時間を無駄に過ごしているという焦燥感ですかね。
それがすごくつらかったので、学生の皆さんにはそんな時間を過ごしてほしくないなぁ。
この「ナナメの会」ってすごく貴重な体験だと思います。
いろんなタイプの、少し先を行っている大人の人と接することですごく視野が広がるし、それはとても大事なことですよ。
自分は同年代としか接していなかったので社会的なものが何も分からなかったから、適当に選んだ会社に入っちゃったし、悪い会社じゃなかったけど、自分の時間を無駄に過ごしたっていう思いはあるんですよね。
だからこういう機会にいろんな業界の大人と接するのはすごく重要だと思う。
――ここで社会人参加者の方から学生へのメッセージがありました。
就職ってすごく悩むと思うけど、はじめに就職した会社で満足することってまずないから、
勇気をもっていろいろやってみて。
今日「原体験はなくてもいい」って分かったんだしね(笑)
いろんな経験を積んで自立して仕事できるようになったらいいと思うよ。
世代を超えた参加者と交友ができる、「ナナメの会」ならではの一幕でした。
なかなか聞く機会のない難民支援についてお話しいただき、社会人、学生共にいろいろな気付きのある会となりました。
Caree On主催「ナナメの会」
毎月ゲストスピーカーを迎えて開催しています。